過去2回の記事(1回目、2回目)で、インテル Core 2 プロセッサー・ファミリー(以下、Conroe)の性能と消費電力、発熱を取り上げてきた。今回は、電力制御や温度監視の仕組みを見ていく。
Conroeに採用されている“インテル Core マイクロアーキテクチャー(以下、インテルCore)”では、同時実行命令数を増やす“インテル ワイド・ダイナミック・エグゼキューション”、演算スループット性能を2倍にする“インテル アドバンスト・メディア・ブースト”など、プロセッサー内部のリソースが拡張されている。もちろん、使い方によってはこうしたリソースを全て使い切ることはあるかもしれない。しかし、デスクトップPCの日常的な用途において、OSのパフォーマンス・モニターのメーターが100%に達するシチュエーションは、それほど多くない。そのため、上で挙げたような機能でパフォーマンス・ヘッドルームを確保した上で、使わない部分の電力をカットすれば、全体としてエネルギー効率の向上が期待できる。これを実現するためのキー・テクノロジーが“インテル インテリジェント・パワー機能”である。
インテル インテリジェント・パワー機能は、プロセッサーやプラットフォームの省電力化を実現するため、いくつかの機能の集合体となっている。その中の一つが“アドバンスト・パワー・ゲーティング”だ。プロセッサー・コアは、プリフェッチャーやデコーダー、スケジューラー、リタイアメント・ユニット、整数演算ユニット、浮動小数点演算ユニットなど、様々なロジック回路から構成されているが、常に全てが使われているわけではない。アドバンスト・パワー・ゲーティングは、こうしたロジックの中から、その時々で必要なものだけに電力を供給する機能だ。 また“スプリット・バス・アレイ”も考え方は同じ。先述の通りインテル Coreでは、内部バスの幅が拡張されているが、扱うデータ幅によって、用意されたバス幅をフルに使うこともあれば、半分で充分なときもある。スプリット・バス・アレイでは、扱うデータ幅にあわせてバス幅を動的に分割し、使わない分には電力を供給しないことで、無駄な電力消費を防ぐ。これらの機能によりプロセッサーは常に必要最小限の電力しか消費しなくなり、それに伴い発熱も抑えられるというわけだ。実際、Conroeの消費電力、および発熱が前世代より、格段に抑えられていることは、前回の記事で見たとおりだ。
写真1、2) インテル インテリジェント・パワー機能の“スプリット・バス・アレイ”
*出展 IDF 2006 Japanにおけるベンソン・インクリー氏の講演より
Conroeはこうした新機能のほか、従来プロセッサーで実績のある機能も継承されている。前回、紹介したとおりインテルは、プロセッサーごとに定義された“熱プロファイル(Thermal Profile)”を公開している。開発者はシステムの熱設計を行う際、消費する電力に対するプロセッサーのケース温度*1)が、熱プロファイルで定義されたレベルに収まるように、熱対策を講じるのがセオリーとなっている。 具体的には、ヒートシンクのスペック(熱抵抗値、サイズ、形状、素材など)や筐体内における空気の流れなど、建物でいえば‘基礎’となる部分のほか、システム稼動時の発熱状況に応じて、放熱ファンの回転数やプロセッサーの電力消費量をどのように制御するかを考えなければならない。そのために不可欠なのが“温度監視”である。 プロセッサーやチップセット、GPU、メモリー、ハードディスク、電源ユニットといった熱源、およびその周辺温度は、システムの電源をオンにした時から刻々と変化し、システムが設置された環境にも影響される。温度変化を正確に捉えることで、例えば、「必要以上の回転数で放熱ファンが回る」、あるいは「限界を超える温度で稼動させ続ける」といった事態を回避でき、それは結局、静寂性や信頼性の向上というユーザー・メリットにつながる。
発熱状況に応じて電力消費量を制御し、シャーシ内の熱を効率よく排出することは、システムの信頼性や静寂性を向上させる上で重要だ。そのためインテルのプロセッサーには従来から、独立した2つの“サーマル・ダイオード*2)”が内蔵されている。1つは“リモート温度センサー”と呼ばれるASIC(特定用途向けIC)と組み合わせて、温度監視を行うためのもので、プロセッサーの温度に応じてファンの回転数を制御する仕掛けとして従来から使われている。 もう1つはプロセッサー内部のTCC(Thermal Control Circuit)を使って温度を制御するものだ。TCCは、プロセッサーの温度が限界点に達した時に作動し、温度を安全圏内に収めるための2種類の機能、“サーマル・モニター”と“サーマル・モニター2”の基盤をなしている。どちらもそれ以上の温度上昇を抑えるために、一時的に電力消費量を落とすという点では同じだが、方法は異なる。前者が有効化されている場合、TCCはコア・クロックのデューティー・サイクル*3)を低くする。これに対して、後者のサーマル・モニター2が有効の場合は、コアを通常状態から、より低いクロックと電圧で動作する低消費電力状態に遷移させる。
こうした機能のほかに、Conroeではシンプルで正確な温度監視を行えるようにに新しく“DTS(Digital Thermal Sensor)”と“PECI(Platform Environment Control Interface)”が採用されている。これらが効果を発揮するのは主にファン制御だ。先のサーマル・ダイオードとASICを組み合わせる方法では、サーマル・ダイオードからのアナログ信号は、ASICでデジタル処理される。そして正確な値を知るためには種々の誤差を補正しなければならない。一方DTSの場合、既にデジタル化された温度データがMSR(モデル別レジスター)に格納され、PECIバスにGetTemp0()コマンドを発行することで参照できる。どちらも測定結果をベースにPWM制御*4)などを使ってファンの回転数を調節するわけだが、その「測定結果」の表現形式には大きな違いがある。
ここでファン制御の基本的な仕組みについて簡単に触れておく。インテル・ベースのシステムでは、ファン制御の基準となる温度“TCONTROL*5)”がメーカーごとに設定されている。というのも筐体の熱特性や放熱能力は、その設計に依存し、それを把握しているのはメーカーだからだ。そしてプロセッサーの温度がこのTCONTROLに近づくか、あるいは達した時、ファンの回転数を高めることでそれ以上の温度上昇を抑えようとする。それでも温度が下がらなかった場合*6)には、先に紹介したTCCを作動させて消費電力をカットする(※ただし、TCONTROLの値やTCCの使用・未使用も含めて、具体的な動作はメーカーの設計、考え方によって異なる)。つまり、温度が限界点に達するまでのファン制御と、それ以降に行うTCCを使った電力制御という‘二段構え’の仕掛けが組み込まれているわけだ。こうしたことからも、PCにおける熱対策の重要性の高さがうかがい知れる。
では話を戻そう。サーマル・ダイオードとASICを組み合わせる方法の計測結果は、実際の温度(摂氏)で表現される。一方、DTSとPECIによる測定結果は、TCONTROLと実際の温度との‘差’で表現される。従って、扱われるのは大抵マイナスの値ということになり、値‘0’は温度がTCONTROLに達したことを意味する。
最後にシステムの静寂性の向上を狙った“インテル Quiet System Technology(以下、QST)”について、簡単に触れておく。QSTは、ファン回転数の変化を最小限に抑えながら、安全な温度域を維持するのに必要な放熱効果を得ることを目的とした技術で、プロセッサーから得た温度データを“PID(Proportional-Integral-Derivative)”と呼ばれるアルゴリズムで処理し、温度が基準値付近で推移するようファンを制御する。実現のためにはファン制御をはじめとする種々の管理機能の中枢となる“ME(Manageability Engine)”と“ファン・スピード・コントローラー(FSC)”、温度データを得るための“センサー用バス(PECIバス、SSTバス*6) ”を内蔵したチップセット、そしてQST用のファームウェアが必要で、今のところインテル 965 Expressチップセットがこの機能をサポートしている。
先日お伝えした「インテル vPro テクノロジー・コンファレンス」のショーケースでは、(vProメインだったこともあり)残念ながらQSTに関する明確な答えは得られなかったが、各社の担当者からは一様に「高性能で静か」という声が聞かれた。インテルの技術資料によるとインテル 965 Expressチップセットを搭載したインテル製ビジネス向けマザー(Intel Desktop Board DQ965CO / GF / WC)では、既にQSTがサポートされているので、その効果を試すことはそれほど難しくはないだろう。
以上、Conroeの温度監視と電力制御機能を見てきた。高性能を実現するための機能ほど派手では無い、というより「地味」ではある。しかしユーザーが、プロセッサーの性能を安心して利用できるのは、常に温度に目を光らせ、いざとなったら速やかに対策をとる仕組みが、裏で働いているからに他ならない。また最近では、静寂性に対するニーズも高まっているが、Conroeの省電力機能に加え、最後に触れたQSTのようなプラットフォーム技術が、「より静かなPC」の実現に貢献するのは間違いない。
【参考資料】
日本コンピューティングシステム Type 1U-XCH2 2008/11/13 UP
東芝 MAGNIA 3510 2008/10/31 UP
日本ユニシス ES7000 モデル 7600R 7634 2008/09/30 UP
日本ユニシス ES7000/one デュアルコア Itanium2 24CPU モデル 2008/09/30 UP
日本ユニシス ES7000 モデル 7600R 7644 2008/09/30 UP
デル Vostro 220 ミニタワー 2008/11/17 UP
デル Vostro 420 タワー 2008/11/17 UP
デル Vostro 220 スリムタワー 2008/11/17 UP
デル Dell OptiPlex 360 2008/11/05 UP
デル Dell OptiPlex 760 2008/11/05 UP